虫喰い木蓮

虫喰い木蓮

むしくいもくれん

山を硯に導いた「山硯」。
制作を終えた後、浅草の工房で今一度御留石に向き合った。
知り得た山の体温、表情が鮮明なうちに
硯に山を導こうと作硯した。
素材である原石の姿を活かし全景を葉に見立てた。
表は広い墨堂と小さな墨池のみとした。
墨堂は主を受け止める場所である。
山が手を広げて人を迎え入れる如く包容の大地とした。
小さい墨池は虫が食べた痕跡である。
石の虫の仕業だが、正体は石を愛する全ての者である。
虫は背面葉脈に沿って食べ進めている。
背の右半分は自然剥離を葉脈に見立てた。
左半分は調和を取り自然を模して作硯した。
背の半分を覆う黄土面は山の肌をそのまま残置した。
人間の指先の感覚は髪の毛一本の太さに反応する。
硯をその手に抱いた主の指が触れる位置に配した。

  • 個人蔵
  • 硯材|玄昌石
  • 様式|天然硯
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この硯について

撮影:河内彩