端渓老坑天然日月硯

端渓老坑天然日月硯

たんけいろうこうてんねん にちげつけん

良い素材は特にそう思わされる。
何もしない方がよかったになってはいけない。
この考えが造形的な思考を上回った結果、
製作当初は硯板(けんばん※墨池のない板状の硯式)を考えていた。
表裏ともに見える石紋が美しい。
側面にも自然の尊い姿が刻まれていた。
石の構造は高密度だが刀を入れれば柔らかい。
彫り味と磨り味は概ね比例する。
全ての面から最高クラスといえる素材だった。

手を加えるのが勿体ない。
人為的造形などおこがましい。
など色々と言い訳を考えては造形概念を持ち込むことから逃げようとした。
勿論少ない手数で高い精度の硯にできればそれにこしたことはない。
そのような名硯は過去にも作られ伝えられている。
しかしそれは素材にとってベストを探した結果でありたい。

用の美に照らし素材を活かす。
そこから逃げてはいけない。
結果この形に行き着いた。

墨池に見立てた月が墨堂の白い石紋、蕉葉白を照らす。
側面には鋭い造形を設けて穏やかな自然の美観を引き立てる工夫とした。
硯縁は設けずなだらかな臼状とし墨堂を大きく取った。
磨りたくなる。触れたくなる。眺めていたくなる。
味わったものが誰かにその感動を伝えたくなる。
作り手はそこに導く者でありたいと思う。

石も料理と同じかもしれない。
素材を活かしきることから理由をつけて目を背けてはいけない。

  • 硯材|端渓老坑
  • 様式|日月硯
  • サイズ|
    163×113×16mm
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この硯について

撮影:河内彩