2022年、紫式部が「源氏物語」を起筆する際に使用したとされる硯を、
現代に蘇らせるプロジェクトが立ち上がった。

滋賀県大津石山寺に保存されているオリジナルの硯をもとに、
不鮮明になった彫刻内容を構築し直し、
さらに心地の良い磨り心地を造形に落とし込む復刻製作である。
分かりやすく、使い易い。永く愛され継承されていく硯を目指し製作しました。
『現代復刻製作版 伝紫式部硯』
製作工程と高解像度の写真を記録として記します。

前工程

調査

令和4年12月~令和5年2月

オリジナル硯についての調査。
使用された石の種類、製作時期および作硯方法、文化背景、彫刻図案の解析。
基礎設計

令和4年12月~令和5年2月

現代版の復刻に際して必要な情報をまとめ、展開図面に再構築する。
本硯は硯全体に対して、彫刻線での表現が多くを占めている。
線描設計は本番で描写する彫刻幅と同様に描き、極力発生誤差を取り除いておく。

制作資料

使用素材、工具の準備

令和5年2月~3月

成分解析によりオリジナルは石灰岩系と判明したが、
高い磨墨性能を併せた現代復刻製作の趣旨に基づき、端渓坑仔岩を使用した。
彫刻精度をあげるため、石質の安定性も重視した。
図面よりひとまわり大きくカットした使用材を広東省から取り寄せる。
原石からの使用率は25%程度、中心部から傷のない部分を取り出した。
耐水実験を繰り返し、石本体の耐久性の確認を施した。
また、製作した設計図に基づき、
この段階で完成までに使用する刀、研磨具は全て用意を済ませる。

本工程

石づくり

令和5年4月 約2週間

図面寸法と同寸になるよう六面体の直角、平面を製作する。
完成した硯の精度を大きく左右する重要な基礎工程。
体力面と製作精度を考え通常1名のところ、2名で行った。
彫刻、研磨

令和5年4月~8月 約5か月

完成精度を上げることを目的として彫刻、線描のリズムを一定に保つ手法をとった。
彫刻と研磨の工程を分割せず、刀のみで同時進行して天面から側面にかけて線描彫刻。
天面、側面完成後、四つ足の作り込みと同時に背面の立体造形へと進めた。
最後に天面に戻り、鯉→牛の順番で彫り、最終工程として墨池にかけて二本のトンネルを開通させた。
トンネル内の傾斜角度、内径は墨詰まりを起こさぬよう調整をいれた。
鯉、牛の表現は仏師の加藤巍山先生に助言をいただいた。
喜怒哀楽が前面にあらわれない表情を目指し刻した。
仕上げ

令和5年8月

天面の円形墨堂二面を泥砥石で研ぎ、磨り心地を調整。
化粧仕上げは薄めに磨った墨をしみ込ませた後、
薄く漆を施し完成とした。
古硯 復刻硯

製作チーム

【サイト制作・演出】藤田圭(Kei’s Factory)
【撮影】河内彩
【資料提供】石山寺、製硯師オフィシャル

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